携帯泥棒の作った曲がヒット! MCベイジーニョの大躍進

パトカーのトランクから登場し、自作曲を延々と歌い続けるMCベイジーニョ

パトカーのトランクから登場し、自作曲を延々と歌い続けるMCベイジーニョ

 

 皆さんの中にどこにいてもある曲が脳裏をよぎったり、逃れられない経験をしたことはないだろうか。最近ある曲が、どこにいてもしつこく私の頭に繰り返し流れてきている。「Me libera nega, deixa eu te amar〜mais um,,, mais um,,」と忘れた頃にまた歌詞とメロディーが襲ってくるのだ。ちまたでは、この曲「Me Libera Nega」が今年のサルヴァドールのカーニバルでブレイクすると噂されている。

この曲の作者MCベイジーニョ(本名イタロ)は、昨年の11月までどこにでもいる普通の19歳の少年だった。ある時、イタロは、ピアタン海岸のバス停でバスを待っている二人に、ナイフをつきつけ、携帯電話を奪ったのだ。早速警察に捕まり、パトカーで連行されるのだが、連行中延々と自分の作った「Me Libera Nega」を歌い続けた。これに興味をもった警察の一人が、地元テレビ局の人気報道番組「バランソ・ジェラル」に連絡。この番組は毎日昼に放映される庶民向け報道番組で、捕まえたばかりの犯人にインタビューも行う。番組は警察から連絡を受け、署に着く前から中継カメラはまわっており、パトカーを追いかけていた。トランクドアを開けると、リポーターの質問に答えながらも、手錠をかけられながら「Me Libera Nega」を繰り返し歌い続けるイタロ。吸引していたクラック(ドラッグ)の影響もあったのだろう。あまりのしつこさに司会者も耳を塞いだ。

しかし、この奇妙な曲に興味を示したのが、ワールドカップ時にヒットした「Lepo Lepo」作者のフィリッペ・エスカンドゥラス。早速2日後に保釈金を払って釈放されたイタロと同曲を録音してYoutubeにアップロード。リズムは、イタロが好きなオロドゥンのサンバレゲエをとりいれた。この曲をカエターノが自宅で弾き語りで歌った映像がネットに流れ、これがきっかけで世の中に広まった。ソニー、ユニバーサルと契約したMCベイジーニョとして録音したビデオクリップは、300万以上の視聴数を獲得する。ピシリコ、ウェズリーサファダン、ルアンサンタナらもこの曲を歌い、オロドゥンもレパートリーに入れた。今年のカーニバルではダニエラとベルのトリオにもイタロのゲスト参加が決まった。

しかし、イタロは金儲けにただ利用されているのでは? という意見も多くみられる。確かにテレビでイタロの様子を見ると、自分の立場や権利を気にせず、単に自分の曲を披露したいだけの純粋な若者という印象を受けた。イタロの家族によると、最初に発掘したフィリッペが、30%の著作権をもらいたいとイタロに提案したらしいが、フィリッペはそれを否定している。いまだにドラッグ更生施設を寝床にしているイタロ。急激な人生の転機が逆に彼の悲劇にならなければいいと願っているが。

(バイーア●北村欧介)


こちらの海外ニュースは月刊ラティーナ3月号に掲載されています。
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