クラウヂオ・アシス監督の最新作~人食いザメとフェルナンダ・モンテネグロ主演

クラウヂオ・アシス監督

クラウヂオ・アシス監督

 映画に出てくるサメといえば、スピルバーグの「ジョーズ」に代表されるようにの人間を襲う凶暴な人食いザメが定番であり、サメの生態についての海洋ドキュメンタリー映画でもないかぎり“サメの立場”に立つ映画なぞない。それが、環境破壊にからまった人間模様をドラマ化した、現在ロケ撮影中の社会派映画がサメを強欲人間の被害者として登場させる、ということでノルデスチ住民の注目を集めている。

この映画の監督はクラウヂオ・アシス。ロッテルダム映画祭で受賞した「愚か者たちの浅瀬」(2006年)でサトウキビ地帯で生きる庶民層の日常と祭りをノンフィクション・タッチで描き、ドキュメンタリー「シコ・サイエンス」(2008年)ではマンギ・ビート旋風を引き起こしたシコの半生を映画化した、ペルナンブーコ映画新世代を代表する監督だ。今や中堅映画人となったアシス監督が、今回の映画で批判・糾弾する対象は、スアッペ臨海工業団地に象徴される大規模経済開発だ。レシーフェから南へ約80㎞のところに位置するスアッペ工業団地には大型石油精製コンビナートはじめ多くの工場が設置されているが、この石油施設こそ、政界や財界の大物100名以上の逮捕を出している、ペトロブラス(国営石油会社)を巡る大型贈収賄疑惑の舞台の一つなのだ。

映画のタイトルは「ピエダーヂ」。憐憫とか信仰心という意味だが、レシーフェの南部海岸地区の地名でもある。この映画は、スアッペに隣接するタツオカ村にある、家族経営の軽食堂が舞台となってドラマが展開されるが、その女主人ドナ・カルミーニャを演じるのが大女優フェルナンダ・モンテネグロだ。

環境破壊の現実とその反対運動を映画で訴えたいアシス監督は、学生時代の1978年、まさにこのスアッペ臨海工業団地計画が正式に決定した年に、反対運動に参加していたというから、その意味では40年近く前の思念を映画化しているともいえるが、ストレートな社会派映画というよりも、人間とサメが錯綜するドラマが展開されていく由だ。

タイトルが掛詞になっていて、まさにピエダーヂがないから強欲な資本が環境も庶民の生活も壊していく、さらには人食いザメもスアッペ沖から追い出されたから、レシーフェのボアヴィアージェン海岸に出現するようになったのだ、ということだろう。

1月に入って、ペルナンブーコでロケが始まったが、この映画がいつ一般公開されるかはまだ未定だ。

(レシーフェ●岸和田 仁)


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