ルーラ・ペナ7年振り 三枚目の新作をリリース

現代の吟遊詩人、ルーラ・ペナ(2016年8月撮影:山口詩織)

現代の吟遊詩人、ルーラ・ペナ(2016年8月撮影:山口詩織)

リスボン在住の女性シンガーソングライター、ルーラ・ペナ。現代の吟遊詩人とも称される彼女が、7年振りの新作『Archivo Pittoresco(原題)』を、コノノNo.1の発掘やフアナ・モリーナ、ヤスミン・ハムダン、シベールなどのリリースで知られるベルギーの名門レーベル、クラムド・ディスクから発表した。

リスボン出身で年齢は40代半ば、白髪混じりの美しい銀髪が印象的な彼女だが、自身の経歴は謎に包まれている。過去にバルセロナでギャラリーを開いていたことがあるという噂で、外国住まいの経験が影響してか、母語以外にフランス語、スペイン語、ギリシャ語、イタリア語など様々な言語で歌ってきた彼女。最新作にも自身のオリジナルの他、ギリシャ人作曲家マノ・ハジダキスやチリのビオレータ・パラらの楽曲を収録している。彼女の楽曲はほとんどがクラシックギターと、彼女の歌声のみで構成されており、至ってシンプル。しかし、その音楽性をシンプルに説明するのは難しい。ファド、ボサノヴァ、ブルース、モルナ、フォークがよく引き合いに出され、彼女の音楽は「ポルトガル版ブルース」「ソロ・ファド」などと形容されることもある。しかし、人生の喜びや苦悩、過去や希望、内に秘めた感情を淡々と歌い上げるそのスタイルは、ひとつのジャンルや文化に結びつけられるものではなく、聞く者の心を震わせる、より普遍的な魂の音楽と呼ぶべきであろう。

筆者も昨年彼女のパフォーマンスを観る機会があったが、音楽フェスティバルというアウェーの場でありながら、その凛とした佇まい、ギター、声、そして会場の空気をも演奏楽器のひとつであるかのように操るその姿に、オーディエンスが徐々に引き寄せられていき、一音一音を聞き逃すまいと見守る様子は印象的であった。

とはいえ、ルーラがポルトガル本国において彼女の創造性に対し正当な評価を受けているかというと、まだまだ注目度は低いと言わざるを得ない。実際、過去19年のキャリアで発表された3作品の内、ファーストアルバム『Phados(原題)』(1998)、そして3作目共に国外のレーベルによってリリースされており、今回の新作に関してもいち早く取り上げていたのは、英ガーディアン紙、フィナンシャル・タイムズ紙など国外のメディアであった。

今回のアルバムリリースに際し、欧州主要各都市を廻る以前より大規模なツアーが予定されており、今後ヨーロッパ外での活躍も期待されるアーティストだ。

(ポルトガル●山口詩織)


こちらの海外ニュースは月刊ラティーナ3月号に掲載されています。
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