中米コスタリカ 寒村で息づくマリンバ

コスタリカで使用されている半音キーのないマリンバ

コスタリカで使用されている半音キーのないマリンバ

中米地峡諸国の民衆音楽を特徴づけるのはマリンバ。この地の先住民、つまり多数派住民に愛されたことによって根付いた音楽だ。

植民地時代にグアテマラ総督府が置かれた現在のグアテマラ及びメキシコ・チアパス州で、アフリカ西海岸地方起源の簡素なマリンバが、同地の潤沢で良質な木材を使って改良されながら独自の発展をみた。現在、グアテマラではさまざまな行事になくてはならない楽器となっている。

その影響はグアテマラの隣国エルサルバドル、ホンジュラスに波及した。エルサルバドルの港湾に外国の客船が到着するとマリンバ・アンサンブルが歓迎する。さらに南下してニカラグアでは国民的な歌手カルロス・メヒア・ゴドイらがヒット曲で弾奏するほど定番楽器となっている。メキシコの進取の気性に富むマリンバ・アンサンブルは首都に進出してダンソンや軽音楽インストゥルメンタル・アルバムを量産した時代もあった。

それほど中米諸国ではマリンバ音楽が普及したが、総督府からもっとも離れたコスタリカではマリンバ音楽の情報はなかった。

先日、コスタリカ北部、ニカラグア国境と接するグアナカステ州の田舎町で活動するマリンバ奏者の活動が首都サンホセの新聞に大きく取り上げられた。そこに同国におけるマリンバ音楽の歴史も記されていた。

同州のナンダジュレという町で活動する演奏家セラード・クベロ・ビジャロボスで、ギターの制作で生計を立てる一方、同国辺境部に伝承されているマリンバ音楽の紹介や自作の演奏活動をしているという記事だ。

記事によるとコスタリカへのマリンバ移入は、グアテマラ総督府のおかれた現在のグアテマラの古都アンティグアに中米の本拠地を置いたカトリック修道団フランシスコ会が布教活動に用いようとマリンバを携えた宣教師がグアナカステに入り定着したようだ。コスタリカとニカラグアが国境を接する地方は現在も先住民共同体が多いところで布教はそうした先住民たちに対して行なわれた。

ビジャロボスの演奏光景を写した写真のなかに、見慣れぬ撥があった。それは打ち弾く部分が小さな三角形の箱のようなもので出来ていた。撥自体がただ弾奏するだけでなく、音を共鳴させるような仕掛けになっていた。ラテン音楽の楽器図鑑は何冊かあるが、そうした本にも収録されていないと思う。音のサンプルも見つからないので、いまだ未知の音である。ビジャロボス自身が創作した可能性もある。成熟仕切ったグアテマラやチアパスでは、こうした新工夫はもう見られない。

ラテンアメリカでは電気を動力としないアコースティック楽器の改良工夫が現在もあることを報告したく本稿を書いた。

(コスタリカ●上野清士)


こちらの海外ニュースは月刊ラティーナ2月号に掲載されています。
こちらから購入ができます。