「トロピカリア:定規とコンパス」 サルヴァドールで展覧会が開催

展覧会に出品されていたエズメタッキの楽器

展覧会に出品されていたエズメタッキの楽器

サルヴァドール市内にあるロダン美術館で『トロピカリア:定規とコンパス』というタイトルの展覧会が開催された。トロピカリアとは、ブラジルの軍政時代に音楽、美術、演劇、映画などの各分野においてアーティストたちが、表現の自由を訴えるために起こした芸術運動。音楽においては、それまでのボサノヴァや保守的なスタイルのブラジル音楽を打ち破るように、エレキギターにバイオリン、ビリンバウを混ぜたり、ブレガ(ブラジル風演歌)、ヨーロッパやアメリカからのサイコデリックロック、ブラジル民衆音楽などを混ぜ合わせた往来の型にとらわれないアヴァンギャルドな音楽スタイルでもあった。代表的なアルバムはムタンチスの『Tropicália ou Panis et Circencis(1968年)』。

それから50年たった運動を記念して今回の展覧会が開催。2017年のサルヴァドールのカーニバルもセントロのテーマはトロピカリア50周年ということだ。このアルバムの参加者の一人でもあるトン・ゼーが美術館のオープニングセレモニーに参加。人気バンド、フンピレスの演奏後にトロピカリアについて30分ほど講演を行った。トン・ゼーは、現在でも独自の音楽スタイルを追行しており、トロピカリア運動を続行している唯一のミュージシャンとして認識されている。展覧会は、トン・ゼーの大学生時代の先生でもあったスイス人の隠れざる奇才ワルテル・エズメタッキが創作したいくつもの楽器が展示された。

ダンス、音楽、映画などのジャンルにわかれ、50年代からのバイーアのアーティストたちが育つ土台となった芸術学校の歴史、創作グループの紹介などがされていた。トロピカリア運動の一人ともいわれる詩人カピナンのインタビュー映像もなかなか印象的だった。カエターノの「Soy Louco Por Te, America」、ジョアン・ボスコの「Papel Machê」は彼の作詞である。サルヴァドールのアフロ美術館はいつも扉が閉まっており、幽霊のような存在だが、カピナンが館長になっており、改築のお金を横取りしているという黒い噂しか知らなかった。が、彼の芸術的な視点はインタビューから、アーティストとしてとてもおもしろい人物だと感じた。講演をしたトン・ゼーは翌日ライヴで新作を発表。サルヴァドールの次回のカーニバルでも市からライヴを依頼されたらしい。しかし、彼はフェイスブックで、「バイーアのスキャンダル」と評し、市から提示されたギャラだけでは、自分たちのチームの予算が補えないと表明している。食費、サンパウロからの旅費、滞在費などの値段を詳しく表示して、ギャラの値段を大きく上回っていることを説明。それに対する市の反応が注目される。

(バイーア●北村欧介)


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