ブラジル音楽史上最高の歌姫 エリス・レジーナの伝記映画

映画でエリス役を演じるアンドレイア・オルタ

映画でエリス役を演じるアンドレイア・オルタ

1960から70年代に一世を風靡し、ブラジルの自由主義的芸術運動〝トロピカリア〟の前線で活躍し、そのパワフルな歌唱で絶大な人気を集め、82年に36歳の若さで早逝した史上最高のブラジルの女性歌手、エリス・レジーナの人生を綴った映画『ELIS』が、エリスの生まれ故郷であるリオグランデ・ド・スル州の映画祭『Festival de Gramado 2016』で初上演され、その後11月24日にブラジル全国の映画館で一般公開された。

歌手としてではなく、アーティストとして、そして女性としての生き方を見せたエリスの伝記映画を録りたかったという監督のウーゴ・プラッタ。ブラジルの国民的歌手エリス・レジーナ伝説の主役を演じているのは、ミナスジェライス州ジュイス・デ・フォーラ市出身、今年33歳の若手実力派美人女優、アンドレイア・オルタ。社会の流れをいち早く見抜き、世界的に成功を収めたボサ・ノヴァのスタイルを打ち壊しながら新しいMPB(ブラジルポピュラー音楽)の世界に革命を巻き起こし、時代の重要な橋渡し役、象徴となったエリスの人生を魅力溢れる歌声で数々の名曲と共に綴る。

世界的にエリスといえば「ボサノヴァ」の歌手、というイメージが強いと思われるが、実際はボサノヴァにある歌い方(小声でボソボソと囁くように歌う)とは対照的な抜群のテクニックでお腹から声を張り上げ、パワフルに歌唱力で表現する本格派の歌手なのだ。音楽に生き、奔放な愛を貫くため、正義感に燃えながらブラジルの軍事独裁政権との対立に苦しみ、そして自らに宿り住み着いた悪魔に恐れながら激情に生きた短い人生。晩年の薬物依存で幕を閉じた波乱万丈な生き様は、エリスのファンならば誰もが知っている。

演技の中で一番困難だったと思われるシーン(オーディオに合わせ、あたかも実際に発声しているかのように見せる口パク)は、完璧にほぼ近く、3ヶ月にも及ぶその特訓と研究は観るものを戸惑わせるほど本物に近いと高く評価されている。極限までに短くカットしたベリーショート姿に加え、エリスのトレードマークでもあった屈託のない豪快な笑顔は、あたかもエリスがまだ存在しているかのように、観客に親近感を沸かせる。そして、同じ時代に生きたオーディエンスに、想いを馳せずにはいられない感情を生み出し、ブラジルの人々にとって“エリス・レジーナ”という存在が、いまだ色褪せることなくあり続けていることを証明した映画である。

(ブラジル●MAKO)


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