コランジェロ氏によるマスタークラスがポロ・バンドネオンで開催

ブエノスアイレス市の教育プログラムとして運営されるコランジェロ氏のマスタークラスの様子。

ポロ・バンドネオンは「ユネスコ無形文化遺産であるタンゴを守り、継承する」ことを目的にバンドネオン奏者のカルラ・アルヘリ女史により設立、ブエノスアイレス市の教育プログラムとして運営されている。「彼女は僕たちが長年やりたかったことを実現してくれている」とコランジェロ氏は語る。「楽器や音楽に触れる機会のない貧しい地区の人たちにまでタンゴを愛するチャンスを」

ボロボロになった楽譜を次々とめくりながら、氏が最初のタンゴ・ピアニストとするロベルト・フィルポに始り、カルロス・ディサルリまでを前半とし時代に沿って数々のピアニスト達を氏の演奏とともに紹介。

マヌエル・ホベス「ロカ」、ホセ・フリアン・マルティネスの作曲のシンプルさの美に触れ、トロイロ版の「パブロ」は感動的で味があると表現する。フランシスコ・ルモート、エンリケ・デルフィーノではタンゴ・ロマンサについて触れ、コビアン作曲・カディカモ作詞のタンゴは全て美しいと「ノスタルヒアス(郷愁)」「ニエブラ・デ・リアチュエロ(リアチュエロの霧)」等を披露。フリアン・プラサ、フリオ・デ・カーロとフランシスコ・カーロと取り上げ、秀逸なオルケスタが方々で演奏していた時代、様々なオルケスタの要素を盗みながらタンゴは発展していったと説明。ディサルリの偉大さは語るまでもないが、歌手にとって簡単ではないと語る。セバスティアン・ピアナでは、カスティージョ作詞の「カセロン・デ・テハス」、最後に「シルバンド(口笛を吹きながら)」「ミロンガ・トリステ」で締めくくる。

たった一つのピアノという楽器を弾いているにも関わらず、氏の奏でるピアノからはバンドネオンの嘆き、バイオリンの泣き声が次々と生まれ、コントラバスのリズムが曲を引っ張っていく。完全にオルケスタを聴いている、もしくはそれ以上の美しさである。若くしてフリオ・ソーサの伴奏者となり、トロイロ楽団の最後のピアニストも務め、数々の素晴らしい歌手の歌声と共に生きてきた巨匠。ピアノからは歌声が聴こえ、歌詞までも感じることができる。

「僕たちはタンゴというものを子どもたちに描いて見せてあげないといけない」と氏は語る。「世界中で聴かれている音楽なのに、アルゼンチンはこんなに素晴らしいタンゴという文化を失いつつある」タンゴには豊かなメロディーと繊細なハーモニーがある。とその美しさを定義。

「僕が生き残ってる最後の黄金期のタンゴ奏者になりつつあるね。だから写真はあまり見たくないんだ」と笑うコランジェロ氏。次回のマスターコースは12月1日に開催予定。

(ブエノスアイレス●折田かおり)


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